企業のサステナビリティとデザイン
2024.04.18 執筆:岡島 梓
ペーパーパレードが主催するトークイベント「幸せなサステナブルデザイン Meet Up」は、デザインで幸せの循環を作るという考えを基に、作り手、顧客、参加者、環境、地域社会など関わるすべての人が幸せな相互関係をつくり成長していくにはどうすべきかを、デザインの視点から考えるイベントです。
第2回のテーマは「企業のサステナビリティとデザイン」。日本社会に広く浸透しつつあるサステナビリティの概念。企業活動においても、自社利益の追求とともに個人や社会に還元するサステナブルな取り組みに注目が集まり、今後一層、サステナビリティの重要性は高まると想像されます。
本イベントでは、カンロ株式会社(以下、カンロ)と取り組んだ、廃棄包材を活用する「世界にひとつだけの、パッケージアップサイクル」プロジェクトや、平和紙業株式会社(以下、平和紙業)との取り組みである、倉庫に眠る紙にスポットライトをあて、製造工程上のゼロ・ウェイストを実現した「やさしい封筒」プロジェクトを通じて、ペーパーパレードと企業がそれぞれの課題にどう向き合い、課題解決の糸口を見つけて形にしていったのかをひも解きます。
ペーパーパレードの考える「幸せなサステナブルデザイン」とは
ペーパーパレードは、attractive・魅力的なデザイン、sustainable・持続可能性のためのデザイン、borderLESS・領域を越境するデザインという三つのキーワードを融合させ、『幸せなサステナブルデザイン』を目指しています。
今回のテーマ「企業のサステナビリティとデザイン」では、ブランドに紐付いて差別化し、成長していく サステナビリティ・アクションがみんなを幸せにしていくと考え 企業が見逃しているサステナビリティな真価を見つけていった事例をご紹介し、事例を通して感じたことをクロストークで語り合います
企業のサステナビリティとは
企業にとってのサステナビリティとは、環境・社会・経済の3つの要素において、持続可能性の高い企業運営を行うことを指しています。SDGs 達成のために企業が果たすべき役割は大きく、一部の先進企業はそれに沿ったアクションをおこし、自社のブランド力向上にも成功しています。
今回のイベントにも参加している両社でも、資源の循環や環境への配慮をデザインした商品が揃うカンロの「ヒトツブカンロearth」や、紙をベースにしたサステナブルな課題解決を発掘・オウンドメディアで発信した平和紙業の「HEIWA PAPER Sustainable Challenge」といったサステナブルなアクションをしています。
開発のきっかけは、平和紙業の社員が長年抱いていた「販売を終了した紙にもう一度活躍の場を」という願い。お客様の価値創造をお手伝いするために生まれてきたのに、日の目を見ずに倉庫に眠っている紙。使われずに終わるのはもったいない。という想いが始まりです。
開発者の想いや販売員の愛着がつまった紙をアップサイクルするなら、余すとこなく使い切るカタチを……と、つくる過程でごみを出さない「製造工程上でのゼロ・ウェイスト」を実践するサステナブルなデザインコンセプトが決まりました。
販売期間中はあまり売れなかった紙が、封筒になった途端に人気が出たりと、アップサイクルされたことで新たな魅力が開花した事例と言えそうです。
カンロ × Paper Parade 世界にひとつだけの、パッケージアップサイクル
続いて、カンロとPaper Paradeが実現したのが「世界にひとつだけの、パッケージアップサイクル」。工場の試運転などで出てしまうパッケージ包材のロスをアップサイクルし、商品化する取り組みです。
「包材のロスを廃棄する以外に何かできないか」と、礒辺さんから相談を受けたPaper Paradeは、パッケージデザインの魅力を感じられるよう、廃棄包材を貼り合わせてシート状に素材化し、名刺入れやサコッシュ等のアップサイクル商品への加工を実現。
商品は、社内のサステナブル推進シンボルとして活用するとともに、現在はECサイトで販売されています。民間企業として永く事業を続けるためには、きちんと価値ある商品をつくり、利益を出すことは当初から意識していました。
ただ、廃棄予定の包材は年間約73トンと大量。そのすべてをアップサイクルすること、さらに一般流通で廃棄される包材を回収して循環させていくことは、現時点では不可能。廃棄量削減と謳うには、依然解決すべき課題があります。
一方、カンロとのプロジェクトで見えてきた「企業のサステナビリティの可能性」もありました。
それが、企業のプライドとも言える(IP 知的財産)を循環させる「UP-CYCLE IP(アップサイクル アイピー)」。こだわりのつまったパッケージデザインを生かしたアップサイクル展開をすることで、企業のプライドを循環させていくという考え方です。
企業の想いをカタチにしたサステナブルデザイン
平和紙業・カンロとのサステナビリティ事例には、デザインの視点からのアプローチや、デザイン的な美しさを意識したという共通点があると、守田は語ります。
「2020 年に欧州委員会が発表したプロジェクト「New European Bauhaus」のスローガンには、Beautiful / Sustainable / Togetherの3つのキーワードが掲げられています。いいことだから、と押しつけられたサステナブルやサーキュラーではなく、心に響く美しさがあれば、人々はサステナブルな活動に一緒に参加してくれるはずだという想いがスローガンから伝わってきますし、私も共感を覚えます」
両社の事例を交えた企業のサステナビリティの紹介をした後、モデレーターの横石さんを交えたクロストークへと向かいます。
クロストーク「企業のサステナビリティとデザイン」
続いて、モデレーターの横石さんのコメントからクロストークがスタート。
サンプルを形づくり、まずはスモールスタートを
横石 大企業内での「サステナブルな活動」にはハードルもあったかと思いますが、コスト面や、ステークホルダーの納得感・理解を得るといった壁はどのように乗り越えてこられましたか?
礒辺 カンロは「サステナビリティを意識した活動をやっていこう」と方針を定め、活動の合意形成ができていました。また、フューチャーデザイン事業部立ち上げ時の上司が社長に就任したり、「ペンケースの試作品を孫に見せ、プレゼントしたらよろこんでくれた」と、前社長も事業を応援してくれたりと、追い風は吹いていましたね。
ただ、廃棄予定のパッケージは社員全員が「ゴミ」としか認識していなかった。そんな中、Paper Paradeさんがあっという間につくってくださったサンプルは、活動の推進力になったと思います。コンサル会社にお願いすると、しっかり計画を立てて進められる分、時間とお金が膨大にかかります。Paper Paradeさんのフットワークの軽さに助けられ、社員のサステナビリティへの意識が変わった感覚があります。
西谷 これは「やさしい封筒」も同様で、守田さんは「1枚の紙から封筒を作ることができるか」と相談したその日の夜に、サンプルの写真を送ってくれました。取り組みを社内に説明するときも、現物があることで議論が前向きになりました。大目標を掲げるのも大事ですが、「まずは、今できるところからやっていきましょう」と、当社のペースに合わせてもらいながら進めていきました。
守田 どちらのプロジェクトも、予算などの話の前に、自分たちで無理なくできる範囲で目に見える形にしています。前回のイベントでもお話ししましたが、デザイナーの役割は、企業内担当者のマインドセットを整えること。プロジェクトのはじまりとも呼べないくらい小さくスタートを切り、そのサンプルを見て「かわいい!」とテンションが上がったチームが一歩を踏み出す。チームを動かす小さな熱をつくるこ
とが、プロジェクトを進める上で大切なのではと感じています。
横石 サステナビリティなど、ESG系の話は頭でっかちになりやすいテーマで、会議室での議論だけでは結局行動に結びつかないことも多い。物がつくれるデザイナーが果たした役割って大きいのかなと思いますね。
サステナブルな取り組みを身近にする「わかりやすさ」
横石 会場からの質問にもお答えしていきたいと思います。「サステナビリティの指標があれば教えてください」という質問が来ていますね。
礒辺 カンロでは、今年からサステナビリティ推進部という正式な部を発足させ、CO2排出量等、あらゆる点のサステナビリティを数値化しながらKPIを設ける準備を進めています。
横石 ありがとうございます。続いて「サステナブルな取り組みを、企業としてどのように発信・ブランディングしていますか?」という質問についてはいかがですか。
礒辺 今後、数値化された活動成果をホームページ等で発信することは必要だと思いますが、現時点でもPaperParadeさんとつくったプロダクト自体に発信力があって取材の依頼をいただきましたし、クラウドファンディングにも大きな反響がありました。
目に見える形の発信は、お客さまにとっても社員にとってもわかりやすく「サステナビリティを掲げるのはいいけど、実際何しているの?」という疑問にも答えやすいという側面があります。
守田 数値目標も重要ですが、プロダクトを介するわかりやすいコミュニケーションが、サステナビリティ活動の中で求められているのではと感じています。
礒辺 そうなんですよね。今回のプロダクトは、パッケージがそのままシート化されています。当社の資産である菓子のブランド、パッケージデザインを全面に見せられるので企業名も素早く伝わり、そのわかりやすさが企業価値も高めてくれます。
西谷 「やさしい封筒」は、カンロさんほどわかりやすくメッセージを発するプロダクトではないので、発信には言葉も時間も必要になると思います。まずは、お店に来てくださった方、封筒を手にしてくださる方に丁寧に説明したいです。今後も引き続き、PaperParadeにご迷惑をおかけすることで(笑)、平和紙業ブランドの認知を高めたいです。
守田 すごく熱心にPaper Paradeの事務所にいらっしゃいますもんね(笑)。これからもよろしくお願いします。
心惹かれるプロダクトが、サステナブルだっただけ
礒辺 「サステナビリティ」という概念を押し付けられると、人は身構えてしまう傾向にあります。わたしたちが気を付けていたのが、プロダクトをつくる上で「サステナビリティ」というコンセプトをメインにするのではなく、きれい、かわいい、美味しい、使い勝手がいいといった「物としての魅力」を主にしようということでした。特に企業が「サステナビリティ」を前面に出すと、頭でっかち感や宣伝感が強くなってしまうので。
守田 PaperParadeはグラフィックデザイン事務所で、サステナビリティを推進するコンサルを専門的にしているというわけでもないし、サステナビリティを社会に問うみたいな思想があったわけではないですが、今は、デザインをする上でサステナビリティという概念は外せないと考えています。
美しくて、サステナビリティ性が高いデザインを提案するから、みんなで一緒にやろうよ。と呼びかけることは、グラフィックデザイナーだからこそできる。こういったトークイベントを始めたのも、「こういうサステナブルなライフスタイルやデザインがあるよ」と前向きに発信したいと思ったからです。
横石 もっと質問にお答えしたいのですが、時間なので最後に登壇者から一言お願いします。
西谷 Paper Paradeさんとプロジェクトを進める中で、紙で社会課題を解決したい、お客さまとの接点をつくりたいという想いが強まりました。紙を扱う会社なので、社員の中には「すでに環境保全には貢献できている」という気持ちがあるんですよね。でも、プラスチックの代替品としての紙というだけではなく、紙で前向きに社会課題を解決したい。「やさしい封筒」は、受け身ではなく、自分たちから働きかけた第一歩です。まだ、社内にも社会にもどんなインパクトを与えられたかはわかりませんが、始めたことに意味はあると思っています。
私ではないんですが、「紙谷刷太郎」という人が、これまで自社が不得意だった個人の方向けの情報発信をしているので、Xやnote、よかったら見てください。
礒辺 今日は、廃棄包材について話しましたが、工場が中心となって、廃棄そのものを減らす取り組みをしていますし、フードロスを減らすために賞味期限をどう伸ばせるかを研究したり、廃棄包材を活用したワークショップを開いたりと、切り口を変えた取り組みをしています。常にアイデアを募集しているので、今日お越しくださった方ともぜひお話ししたいです。
横石 アップサイクルは、サステナブルな活動の一部ということですよね。また、いろいろな方とお話ししたいという言葉も、デザイナーを始めとした他者と出会って面白い展開が生まれたご経験があるからこそ出てくるのかなと思いました。
守田 「サステナブル」や「サーキュラーエコノミー」は壮大なテーマなので、何から始めたら……と身動きが取れなくなる企業担当者の方は多いと思いますが、今、できること、目の前の課題を少しでも良くすることが大切だと思います。「数値的に弱いかも」といった懸念はひとまず置いて、今すぐ小さな一歩を進めましょうと伝えたいです。美しいサステナブルだからこそ皆で一緒に進めていけるんだと思います。
SPEAKER
カンロ(株)新規事業本部 デジタルコマース・フューチャーデザイン事業部
礒辺友里子さん
カンロ飴、ピュレグミ、金のミルクキャンディなどを販売している1912年創業の老舗菓子メーカー、カンロ株式会社。創業110周年を迎えた2022年「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」という企業パーパスを設定した。2024年4月オープンの商業施設「ハラカド」に都内2店舗目の直営店「ヒトツブカンロ原宿店」をオープン。
入社以来、28年間新製品開発を行う。代表商品がピュレグミ。その後ダイバーシティ推進室長として多様な人材の活躍・働き方改革を推進し、2022年より飴・グミ以外の新規事業を生みだすフューチャーデザイン事業を模索中。渋谷QWSをきっかけにPaper Paradeと廃棄包材アップサイクルを協業。
SPEAKER
平和紙業株式会社 事業推進本部 販売推進部
西谷浩太郎さん
色やテクスチャー、風合いを持つファンシーペーパーや様々な機能を持った技術紙などを中心に取り扱う紙商社、平和紙業でデザイナーやクリエイターに向けて紙のプロモーションを行う。紙に関する情報を、クリエイターをはじめとする様々な方々に伝えるために「ニュー紙と印刷とラジオ」や「なるほどなPAPER」といった企画を立ち上げる。また、紙を通して社会の課題を解決するための取り組みにも力を入れ、規格終了商品の活用と、製造工程上のごみをゼロにする「やさしい封筒」を企画開発。
Paper Parade (共同代表/クリエイティブディレクター)
守田篤史
「紙や印刷の新しい価値を生み出す」をテーマに、フィジカルの境界を横断しながら独自の世界観を創出するデザインを提案している。下町の印刷・紙加工工場との協働を通じてプリンティング、プロセッシング技術の知見を深める。アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からの提案を得意とし、サーキュラーの観点からプロジェクトをプロデュースするといったサステナブルな領域のデザインも提案している。国内外の受賞歴多数。JAGDA会員。コーヒーブランド 、キッチンスペース「1 room kitchen」主宰。
MODERATOR
&Co.代表取締役/プロジェクトプロデューサー
横石 崇さん
多摩美術大学卒。2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発、社会変革を手がけるプロジェクトプロデューサー。アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」や渋谷区の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、渋谷ヒカリエにてシェア型書店「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。法政大学兼任講師。代官山ロータリークラブ会員。著作に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)など、執筆連載多数。