
サステナブル素材と循環のデザイン
2024.05.28 執筆:岡島 梓
ペーパーパレードが主催するトークイベント「幸せなサステナブルデザイン Meet Up」は、デザインで幸せの循環を作るという考えを基に、作り手、顧客、参加者、環境、地域社会など関わるすべての人が幸せな相互関係をつくり成長していくにはどうすべきかを、デザインの視点から考えるイベントです。
第3回のテーマは「サステナブル素材と循環のデザイン」。
昨今、注目を集める「サステナブル素材」とは、原料の調達から製造、販売、消費、廃棄に至るプロセスにおいてサステナブルであることを目指す素材です。環境だけでなく、生産者の労働環境にも配慮されているかも重要な要素とされています。
「openmaterial(オープンマテリアル)」が、530WEEKの期間である5月25日(土)~5月30日(木)に渋谷ヒカリエで開催したアップサイクルや循環をテーマにした企画展「Waste-Go-Round 〜ゴミは環る〜」と連動した本イベント。企画展にも参加された(株)インパクトアコースティックジャパン、(株)乃村工藝社からゲストをお招きし、各社のサステナブル素材を中心としたプロジェクトやその可能性、循環するためのデザインについて語り合います。
Waste-Go-Round 〜ゴミは環る〜の展示について
今回のトークイベントが行われるのは、渋谷ヒカリエで開催されたアップサイクルや循環をテーマにした企画展「Waste-Go-Round 〜ゴミは環る〜」の展示会場。ペーパーパレードがこれまでご縁をいただいてきた企業、サステナブルな活動に取り組む注目企業にお声がけし、ご協力を得てペーパーパレードが企画デザインや空間演出を担当しました。
「展示会のコンセプトに合った、各社のプロダクトやプロジェクトの魅力を伝えることは大前提に、商業施設を訪れる一般のお客様にもフレンドリーな展示でありたかったので『アップライクルのラウンジ』をつくるイメージで演出しました」と、語るペーパーパレードの守田。
まず、企画展にも参加された(株)乃村工藝社の亀田 奈緒さん、小川 直人さん、(株)インパクトアコースティックジャパンの片居木 亮(かたいぎ りょう)さんに各社のサステナブルな取り組みをご紹介いただきます。

乃村工藝社のソーシャルグッド活動「SCRAPTURE(スクラプチャー)」
商業施設、ホテル、オフィス、博物館・美術館や博覧会・イベントなどの企画・デザインから運営まで手掛ける空間の総合プロデュース企業、 (株)乃村工藝社。創業130周年を機に、会社をより社会にひらいていきたい。そのためのツールをつくりたいという想いから生まれたのが、今日、トーク登壇者が座っているファニチャー「SCRAPTURE」です。

(※会場でも上映したコンセプトムービーはこちら )
乃村工藝社が属する内装・展示業界では、使用済みのサンプルや展示等で使われた什器などはリユースされない限り廃棄されるという現状があります。「SCRAPTURE」は、普段、目にしない内装にまつわる廃棄物の存在を知り、感情と記憶に訴えかける実用かつ持続的なメッセージアートとして制作されました。再生ビニールを使用した透明表皮に、粉砕加工した廃材を封入・保管し、誰もが座れるイスとして日常的に活用されています。

DESIGNART TOKYO 2023というアートイベントにも出展したところ、ポヨンとした座り心地や形状の楽しさに惹かれたのか、来場した子どもたちに大人気。公園のような光景が生まれていたそうです。今後、サイズや素材、コラボレーションする企業を変えた展開も考えられ、乃村工藝社のソーシャルグッドを訴えかけるアイテムとなりそうです。

すべての商品を廃材から。インパクトアコースティックの持続可能な吸音製品
2019年に創業されたインパクトアコースティックは、ペットボトルなどを持続可能な吸音製品にアップサイクルしているスイスのメーカーです。主力商品である「アーキソニック®︎フェルト」は、使用済みペットボトルから再生されたペット素材を使った吸音フェルトパネル。フェルトの材料になるペットボトルは、分解に450年かかる環境負荷の高い素材。「アーキソニック®︎フェルト」1㎡あたりには、88本の使用済みペットボトルが使われています。

高い加工性と吸音性を持つフェルトは、オフィスの会議室やコワーキングスペースへの納入が進んでいます。イベント会場の真ん中に置かれたラウンド型のベンチも、「アーキソニック®︎フェルト」のパネルをカットしてつくられたもの。さらに、カットした際に出た端材は、会場展示の吊り什器に使われています

会社のスローガンは「ピスポーク&サーキュラー」。オーダーメイドにこだわり、すべての商品を廃材から生み出すことが徹底されています。フェルト以外にも、紡績用に使わない短い綿繊維だけを使用し、水と土(ミネラル)で固めたボード素材「アーキソニック®コットン」という商品も展開されているそうです。

トークセッション「サステナブル素材と循環のデザイン」
サステナブルかどうかという観点は、企業活動の多くに関わる

2社のサステナブルな活動とプロダクトを紹介いただいた後、モデレーターの横石さんにも加わっていただき、トークセッションが始まりました。
横石 世界が誇る家具メーカー「ヴィトラ」の日本代表をされていた片居木さんが、インパクトアコースティックというベンチャー企業へ転身されたことに驚きました。なぜ、このタイミングで転身されたのかお伺いしたいです。
片居木 元々、自然が好きで、サステナブルな活動に興味があったのですが、前職でもここ数年、椅子をつくるときのCO2発生量を明示したり、再生素材や、この先再生できる素材を選んだりと、サステナブルな観点で物事が決まっていく感覚はありました。
これから欠かせない観点であるはずなのに、サステナブル領域はまだまだ未開拓で、専門家も少ない状態。ある意味、自分でも開拓できる余地があると感じたことも転身を決めた理由かもしれません
横石 今、インパクトアコースティックという会社を知っている方は、サステナビリティに対する感度が高い会場でも8%ほどでした。この認知度が上がることがイコール、日本のサステナビリティへの感度も高まっている証拠と言えそうです。
片居木 そうですね。当社がヨーロッパで受け入れられているのは「この会社が関わっていれば、世界を良い方向に進めてくれるだろう」という期待感からだと思います。いずれ日本でも実績を重ね、期待していただけるようにしていきたいです。
「SCRAPTURE」は、サステナブルへの関心を呼び起こすメディア
横石 今、わたしたちが座っている「SCRAPTURE」、水滴の上に乗っている感覚で楽しませてもらってます。「SCRAPTURE」を生み出すきっかけを教えていただけますか?
亀田 創業130周年プロジェクトで集まった有志、わたしたちを含め5名のデザイナーが、「ソーシャルグッドな取り組みを」というテーマのもとアイデアを出し合いながらつくってきました。デザイナーとして働く中で、お客様から「サステナブル素材を使いたい」と直接的にオーダーをいただくことが増えたり、サステナビリティをどうデザインで昇華していくのかといった課題を抱えていたのは事実です。
小川 当時、サステナビリティへの取り組みはなかなか自分ごとにできていませんでした。ただ、いざ動こうと思っても、お客様のご要望や建築関係の法律の中でどうサステナブルな活動を織り込んでいくのかは難しかった。
亀田 話し合う中で、ゴミになりゆくサンプルの山を見て「あれどうするの……?」という気づきから「ラップしたらいいのでは」というアイデアが出ました。わたしたちは素材を使って「側」をつくってきた。今回も、側(器)をつくって、誰でもそこに入ってきてもらえるような形で、いろいろな企業とつながっていけたらという想いがありました。
小川 当社グループには、デザイナーが300名以上在籍しています。個々のサステナブルな活動が、もっと大きなうねりになるのではと感じていました。サステナブルを意識した「SCRAPTURE」を会社の顔であるエントランスに配したことで、社内はもちろん、社外の方にもサステナブルな活動に対する関心を高められた気がします。エントランスの「SCRAPTURE」を見て「自社の廃材を入れてみたい」と仰るクライアントや、中に入れた廃材を見て「この廃材を使ってみたい」と仰って、実際にアップサイクルして建材として使ってくださるクライアントが現れ、うれしかったです。
守田今回の展示でも、出展企業のプロジェクトに関わる廃材を「SCRAPTURE」に封入しています。乃村工藝社さんが「SCRAPTURE」というメディアをつくってくれたおかげで、僕らなりの展示のストーリーを表現できたと思います。
「SCRAPTURE」に封入した、カンロ飴の包み紙などは色鮮やかで、子どもから大人まで「キレイ!」と声を上げてくれていました。言ってしまうとゴミだったものが「こんなキレイなもの捨てちゃうの」と言われる。僕の中では、ゴミっていうものをどうとらえたらいいか、もう一度考えるきっかけになりました。

触れられるサステナブルなプロダクトが、社会にメッセージを伝える
横石 インパクトアコースティックジャパンで仕事をされて2か月、何か気づきはありましたか?
片居木 商品の販売にあたって、サステナビリティを全面に押し出していたんですが、あんまり刺さらなかったので「加工性が高く発色もいい素材」をデザインに活かしてほしいし、結果的にはサステナビリティにもつながりますよという順番で説明すると、ご理解いただけることがわかってきました。
守田 前回のイベントでもお話ししましたが、サステナビリティを全面に打ち出しながら社会に浸透しなかった反省をふまえて立ち上がった欧州委員会のプロジェクト「New European Bauhaus」の中核コンセプトは「Beautiful」「Sustainable」「Together」です。サステナブルであることはプロダクト開発やプロジェクト進行において当たり前。美しさ、かっこよさ、ストーリー性が、社会とコミュニケーションをとる上で大切ではないかと思います。
小川 サステナブルな素材を使おうと意識しすぎると、デザイン性はさておき「サステナブルだから」と言い訳ができる状況があったと思います。
亀田 クライアント側も、以前は「リサイクル率〇〇%の素材を使いたい」といった、条件ありきのお話が多かったのですが「SCRAPTURE」ができてから、クライアント側から「これを入れてみたい」というポジティブな希望が聞こえるようになりました。会社から出たわずかな廃材を封入しても、環境問題を解決はできない。でも、一緒に創り上げた「SCRAPTURE」を通して、たくさんの方に伝わるメッセージがあるとしたら、その波及効果は大きい気がします。
片居木 「アーキソニック®︎フェルト」もペットボトル88本で1㎡のパネルになるとお話ししましたが、世界中で毎分120万本のペットボトルが消費される現状を変えるまでには至りません。でも、その素材が使われた空間にいることで、サステナビリティへの意識は高まると思いますし、会社としてサステナブルな活動に取り組むという意志を示すことができ、会社のブランディングにもつながると思います。

サステナビリティは、気負わずに自分たちにできることから
横石 会場から片居木さんに質問をいただいています。日本国内に、ペットボトル再生の仕組みはできつつあるのでしょうか?
片居木 日本のペットボトル回収率は8、9割と世界一高いのですが、その先の仕組みは出来上がっていないのが現状です。国土が狭いこともあり、焼却して燃料として利用することが多いです(サーマルリサイクル)。最も理想的なリサイクルは、ペットボトルがそのままペットボトルになること(マテリアルリサイクル)ですが、一度捨てられたペットボトルは混入物があったりして、そのままペットボトルとして再利用することは難しくなっています。
インパクトアコースティックでは、品質の安定性を担保するため、使用済みペットボトルからつくられる再生PET約6割と、普通の再生PET約4割を混ぜてつくっています。本当は、当社の製品を販売後、回収してペットボトルにするという循環もつくりたいのですが、今はまだ動いている最中です。でも、僕は前向きに考えていて、技術的に解決できない問題って世の中にたくさんある。でも、一度捨てるはずだったものが僕らの製品となって寿命が伸びているうちに、できるだけ解決に近づけようと動くことが大事じゃないかと思います。
守田 片居木さんのお話を伺って、僕らも同じ考えでやってきたなと思いました。捨てられるはずの屋外広告を商品化し、もう一度活躍の場をつくって街にプールする。プールされている間に、いつか誰かがさらによい形で再生する方法を生み出してくれると信じて、延命させるというか。街なかに実装された「SCRAPTURE」も、僕がまず感じた印象はタイムカプセルのようなイメージなんですよね。今捨てるとちょっと厄介な廃棄物なども、一時的に街に保管して、時期を待つ。見るはずのなかった廃棄物を目にすることで、ゴミ問題やリサイクルを考えるきっかけにもなります。サステナビリティってもう避けて通れない問題なので、みんなで考えるきっかけをつくったり、大発明を待つ間の時間稼ぎを美しくやろうみたいな感じで動くと、サステナビリティへのハードルも下がるのかなと思います。
横石 ありがとうございます。最後に、登壇者のみなさんから一言お願いします。
小川 サステナビリティってテーマが壮大で、大きくとらえすぎると何もできなくなるなと感じたことがありました。そのとき「自分の半径3m以内のことから考えよう」というキーワードを大事にして「SCRAPTURE」をつくりました。今は「SCRAPTURE」が媒介になっていろんなイベントに参加させてもらい、今日もここでみなさんとつながることで半径がどんどん拡大している感覚で、楽しいです。
亀田 ゴミをそのまま詰めれば何かできるという発想はありふれたものかもしれませんが、実際どう形にしたらいいか煮詰めていった結果、ゴミとは相反する形、童心に帰ったようなかわいいものになりました。実際、子どもたちに人気だったのも予想していなかったことですし、これからも想像を超えたところとつながっていけたら面白いことができそうだと思います。
片居木 サステナビリティ業界というものがあるとすれば、まだ熱狂的に活動している人は少なくて、コミュニティが出来上がってない感覚があります。だからか、温かく協力しあえている。サステナビリティを通して、人同士のコミュニケーションが生まれたような気がしているので、こういった機会でまたつながりができたらと思います。


SPEAKER
株式会社インパクトアコースティックジャパン
片居木 亮さん
ヨーロッパ輸入家具商社にてオフィスプロジェクトを多数手掛け、家具やオフィス空間構築のキャリアを始める。2009年スイスの家具メーカー、ヴィトラの日本法人設立に際し転職、販売責任者に就任。シンガポール、中国などアジア勤務を経て、2015年ヴィトラ日本法人代表取締役、2020年よりアジア事業責任者を兼任。世界中の最先端の事例など新しいオフィスの在り方を研究し提案。
2023年12月に同職を退任し、2024年1月よりスイス、インパクトアコースティック アジア事業責任者、株式会社インパクトアコースティックジャパン代表取締役となる。音響やサステナビリティの観点を加え、空間の質のさらなる向上を目指している。

SPEAKER
株式会社乃村工藝社
亀田 奈緒さん
多摩美術大学卒。
乃村工藝社入社後、ショールームや専門店等のコミュニケーションデザイン、ホテルやラウンジなどのホスピタリティ空間をはじめ、個人住宅等幅広い市場での設計を担当する。
2020年度よりクリエイティブチームno.10 配属となり、複数の海外案件を担当。
世界中に展開しているコーヒーブランド『% Arabica』のプロジェクトでは、個人として年間10物件程度のスピードで、各店舗異なるコンセプトのもとデザインを手掛けている。
(クリエイティブチームno.10 https://www.no-10.jp/)

SPEAKER
株式会社乃村工藝社
小川 直人さん
工学院大学大学院卒。
2019年入社後、レジデンスを中心に、「アニヴェルセル 表参道」などのホスピタリティ施設、エグゼクティブ向け会員制サロン、オフィスと幅広い市場を担当。「予定不調和」を念頭に課題を本質的に見つめ直すことで、豊かな空間性と体験性をつくり上げる。「SCRAPTURE」を筆頭にストーリー性を重視したサステナブルな活動も積極的に行う。

Paper Parade (共同代表/クリエイティブディレクター)
守田篤史
「紙や印刷の新しい価値を生み出す」をテーマに、フィジカルの境界を横断しながら独自の世界観を創出するデザインを提案している。下町の印刷・紙加工工場との協働を通じてプリンティング、プロセッシング技術の知見を深める。アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からの提案を得意とし、サーキュラーの観点からプロジェクトをプロデュースするといったサステナブルな領域のデザインも提案している。国内外の受賞歴多数。JAGDA会員。コーヒーブランド 、キッチンスペース「1 room kitchen」主宰。

MODERATOR
&Co.代表取締役/プロジェクトプロデューサー
横石 崇さん
多摩美術大学卒。2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発、社会変革を手がけるプロジェクトプロデューサー。アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」や渋谷区の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、渋谷ヒカリエにてシェア型書店「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。法政大学兼任講師。代官山ロータリークラブ会員。著作に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)など、執筆連載多数。