都市型サーキュラーとまちづくり

都市型サーキュラーとまちづくり

2024.02.27 執筆:岡島 梓

ペーパーパレードが主催するトークイベント「幸せなサステナブルデザイン Meet Up」は、デザインで幸せの循環を作るという考えを基に、作り手、顧客、参加者、環境、地域社会など関わるすべての人が幸せな相互関係をつくり成長していくにはどうすべきかを、デザインの視点から考えるイベントです。

第1回のテーマは「都市型サーキュラーとまちづくり」。まちの物語が沁み込んだ素材を再生するアップサイクルブランド「Ligaretta」の事例を紹介しながら、サーキュラーデザインとまちづくりの観点からファッションブランドを立ち上げた理由やデザイン的なアプローチについて解説していきます。

今回は、ペーパーパレード守田がNPO法人大丸有エリアマネジメント協会の長谷川春奈さんをゲストに迎え、&Co.代表取締役/プロジェクトプロデューサーの横石崇さんがモデレーターを務めてくださったイベントの様子をレポートします。

ペーパーパレードの考える「幸せなサステナブルデザイン」とは

「ペーパーパレードは、attractive・魅力的なデザイン、sustainable・持続可能性のためのデザイン、borderLESS・領域を越境するデザインという三つのキーワードを融合させ、『幸せなサステナブルデザイン』を目指しています。『幸せなサステナブルデザイン』とは、ステークホルダーと共に成長し、サステナブルなアクションで皆が幸せになれるよう、デザインで幸せの循環を作ることだと考えています」という守田の言葉から、イベントは始まりました。

アップサイクルブランド「Ligaretta」

続いて、2023年1月に設立されたアップサイクルブランド「Ligaretta(リガレッタ)」の事例紹介です。

Ligaretta

Ligarettaは、大手町・丸の内・有楽町エリアのまちから出た広告物やイベント什器といった廃棄されゆくものを「まちの物語が沁み込んだ素材」と考え、廃棄量を減らすだけではなく、まちの人に使っていただくことでまちの中での素材循環を生み出そうとしています。さらに、まちの物語をつなぐこともコンセプトにした、アップサイクルファッションブランドです。

まちの物語が染み込んだ素材の循環
プロダクト

Ligarettaを実現するための課題とその解決方法

大丸有エリアの街路灯には、広告出稿いただいたフラッグが232枚掲出されており、掲出期間は平均約2週間。しかし、フラッグの耐久年数(素材寿命)は6年以上。『素敵なデザインのフラッグが、2週間で廃棄はもったいない』という想いから実現したのが、Ligarettaの商品第一弾。フラッグをアップサイクルし、上質で価値のあるアイテムへの転換を目指してつくられました。

しかし、屋外広告に関わる知的財産権「著作権・肖像権・商標権」は広告業界において「触るな危険」扱い。これまで、広告物のほぼすべてが廃棄されてきました。知的財産権は守られるべき大切な権利ですが、それがアップサイクルの場面では大きな障壁になっていました。Ligarettaは、水玉や千鳥格子の「シークレット地紋※」を広告物の上から施し、知的財産権を認知できなくするという手法で課題を解決。フラッグの回収を進め、アイテムへの転換を進めることができました。

素材寿命ギャップについて
知的財産に解決策として
※郵送物に封入された重要文書等が透けて見えることを防止するためのパターン模様

「Ligaretta」が目指す循環(サーキュラーデザインについて)

サーキュラーデザインとは、資源が上手く循環するために、製品やサービスに循環の仕組みを組み込んだデザインと言えます。市場に流通する製品がもたらす環境負荷のうち、80%以上はデザインの段階で決定されると言われています(出典:EUサイエンス・ハブ)。Ligarettaでは、設計時に生地(フラッグ)のロスを10%以下に抑えるなど、環境負荷を減らす取り組みを進めています。

最終目標は「サーキュラーエコノミー」を実現した取り組みにすることですが、Ligarettaは、現時点では、廃棄されるものを循環する素材として捉え、付加価値をつけてまちへ還元していく、そして、利用された商品を修理して長く使っていただくという渦巻き型の社会を目指しています

Ligarettaは都市ならではの循環を目指す都市型サーキュラー

ペーパーパレードは、屋外広告のような都市の経済活動によって生じ、廃棄される素材の循環を「都市型サーキュラー」と定義しています。

都市や社会を経由した素材は、回収も製品化も非常に難しいのですが、見て見ぬふりをせず、サーキュラーエコノミーな社会を推し進めたいという想いがLigarettaには込められています。廃棄される素材を『元々捨てるもので安くて当然な素材』ではなく『まちの物語が沁み込んだ価値のある素材』と定義し、日本の職人が仕立てる高付加価値商品は、利用者を『サーキュラーエコノミー』に巻き込む原動力になると信じています。

Ligarettaとまちづくり

Ligarettaは「まち」というコミュニティを起点とし、まちの個性や課題に向き合ったブランド。まちづくり団体が立ち上げたブランドであり、地域資源を活かしながら、まちの賑わい創出、まちの環境改善、まちのコミュニティ形成をテーマに『物語がつながるまちづくり』に取り組んでいきます。2024年度は、ネットワーキングやワークショップを実施予定です。
また、Ligarettaを通じて、何度も大丸有エリアに訪れていただけるよう、丸の内ストリートパーク期間には展示販売会やお直し会を実施し、人々がまちを訪れるきっかけづくりをしていきます。

クロストーク「都市型サーキュラーとまちづくり」

続いて、モデレーターの横石さんのコメントからクロストークがスタート。

&Co.代表取締役/プロジェクトプロデューサー 横石さん(写真:右 以下、敬称略)

横石 持続可能性と創造性が見事に融和したプロジェクトですが、どうやって進めたのか気になっている方も多いと思います。Ligarettaチームの多くは三菱地所出身者で、言葉を選ばず言えばファッションブランドの立ち上げはあくまでも素人ですよね。個人的には、まちにはステークホルダーが多いし、社内で企画を通すのも大変そうだと感じていました。

長谷川 社内では「収益がどこから得られるのか」という指摘などを受けていましたね。目先の利益はさておき「こういう取り組みをしているまちって素敵だと思いませんか」と丁寧に説明しました。アップサイクルに注目が集まり始めたタイミングも重なり「いい取り組みだ」と後押ししてもらえるようになり、マネタイズや商品のアイデアをいただくこともありました。社内外の方々にLigarettaを育ててもらったという感じです。

デザイナーの伴走が鍵になった、ソフト面からのまちづくり

横石 多くのデザイナーが、デザインとサステナブルを両立したものを生み出したいと思っていますが、守田さんがLigarettaで実現できた理由はなんだと思いますか?

守田 ファッション業界の常識を知らなかったから、というのが正直な理由かもしれません。ペーパーパレードの二人はグラフィックデザイナーで、ファッションデザイナーを呼ぶお金もない。なので、勢いで「サンプルつくってみよう」と、フラッグを使ったトートバッグを和田(ペーパーパレード共同代表)がつくってくれたんです。

長谷川 そのバッグは、想像以上に素敵でした。サンプルがひとつあったことで、実際のプロダクトを見て社内から良いね! という声をもらい、説得できた部分も大きいです。デザイナーが伴走してくれたからこその展開でした。

横石 「シークレット地紋」の話も印象的でした。僕も広告会社にいたので「人の広告費でつくったものを、再利用するってどういうこと?」と広告主から言われたり、肖像権絡みのトラブルが起きたりといった展開を容易に想像できるんですよ。

守田 「フラッグをそのまま使いたい」なんて口にしたら、激怒されますよね(笑)。フラッグのデザインをベタで隠しても透けるし……と悩んでいたとき、銀行からDMが届いたんです。情報が判別できないようシークレット地紋が施されたDMを見て「塗りつぶさず、わからなくしてしまえばいい」と気付いたんですよ。銀行さんに感謝です(笑)。

横石 勢いとか偶然を、力に変えてきたチームなんですね(笑)。

Ligarettaが、サーキュラーエコノミーを広げるきっかけに

横石 Ligarettaを立ち上げて、ご自身のテンション上がった瞬間を教えてもらえますか?

守田 ある日、長谷川さんがLigarettaについて熱くプレゼンしてくれたときです。一般的に、デザイナーの理想にある意味ストップをかけて落としどころを見つけるのがクライアント。でも、自分の言葉で熱く説明されている姿は、チームがサーキュラーエコノミーに前向きだという証明だと感じ、Ligarettaは上手くいくなと思えました。

長谷川 やはりLigarettaの商品ができて展示販売会ができたとき。そして、まちで働く方々、いわゆる半径3mの方にご購入いただいたときです。さらに、一部の購買者が、Ligarettaのファンになり、幸せなサステナブルを伝える側になってくれたことはうれしかったです。ご購入いただいた方が一緒にブランドをつくってくださっている感覚がありました。

横石 購入者が参加できる余地が、ブランド継続のためには大事になりますよね。

長谷川 先ほど、会場から「一般の方にアップサイクルやサステナブルの価値を届けるのが難しい」というお悩みを教えていただきましたが、実際にLigarettaの購入者が商品を見せながら周りの方に話してくれるようになると、アップサイクルやサステナブルとの距離が自然に縮まっていく気がします。

2023冬の展示販売会の様子

横石 会場から「展示販売会では、どんなお客様にどんな商品が売れたのか知りたい」という質問が来ています。

長谷川 三菱ビルの1階「Have a Nice TOKYO!」で、コート、スカート、キャップ、スニーカー、ミニトートバッグ、名刺入れ、ネクタイ等を販売しました。クオリティを担保した上でのハイブランド戦略をとっているので、一番安価な名刺入れでも14,300円、コートが97,900円という価格帯です。ビジネスシーンで話題にできるアイテムが人気で、名刺入れは役員も購入して使ってくれました。

まちごとの課題、まちの素材を活かせば、第二、第三のLigarettaも

横石 ほかにもLigarettaは素晴らしいが、大丸有という日本有数のビジネス街という土地柄だったり、大企業が手掛けるNPOだから実現できたのでは。という質問もいただいています。

守田 たしかに、大丸有エリアは全国的に見ても特異な場所かもしれませんが、エリアマネジメント団体の予算内で運営していて、特定の企業からの予算などは投下されていません。チームも泥くさく動いてきました。まちを経由した「まちの物語が沁み込んだ素材」はまちの個性を反映していて、まちごとに課題も異なります。自分たちでも何かを起こしたい人がいるならご相談いただければどこでも行きます(笑)。ただ、アップサイクルというと慈善事業ではないことは伝えたい。それでも、本当にやりたい人が一人でもいてくれるならお手伝いしたいです。

長谷川 地域性を大事にすれば、横展開はもちろん可能だと思います。丸の内エリアだから高品質なハイブランド戦略をとる、ファッションのラインナップを充実させるというように、街の個性を活かし、どんな方が使ってくれるかを想定すれば実現できるはずです。全国からLigarettaへの問い合わせをいただいているので、オンライン勉強会の開催も考えています。

Ligarettaが、まちづくりに参加するきっかけになる

横石 最後になりますが、リアルなまちを拠点とするLigarettaは、どんな役割を果たせそうですか?

守田 Ligarettaの最終目標は、大丸有エリアのファンづくり。まちを訪れるきっかけをつくることが、使命のひとつです。Ligarettaの商品を購入することが、まちづくりに参加するひとつのきっかけになればという想いがあります。

長谷川 丸の内が好きで訪れる方、よりこの街を知りたいと思っている方が、Ligarettaを持って歩くことで、普段見ている景色が自分の持ち物になっているというストーリーを感じられます。そうすると、よりこのまちに愛着が持てたり好きになるはずです。

横石 先日、世界的なハイブランドの方に「ラグジュアリーの定義」を伺ったら「夢だよ」と答えが返ってきました。夢や物語の中に入り込めるものがラグジュアリーなプロダクトなら、Ligarettaはこの時代の新たなラグジュアリーブランドになりうるのだろうなと思いました。
また、都市型サーキュラーの主役はまちの人で、その人たちがまちづくりに参加できるステージをつくっているのが、長谷川さんをはじめとするNPO法人大丸有エリアマネジメント協会さんや、ペーパーパレードのお二人なのだと感じます。本日は、ありがとうございました。

SPEAKER
NPO法人大丸有エリアマネジメント協会
長谷川春奈さん

三菱地所株式会社エリアマネジメント企画部 兼 NPO 法人大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)担当。大手町・丸の内・有楽町エリアのまちづくりに関わり、エリアマネジメント広告などを手掛ける。2022年には、アーティストとのコラボレーションによるベースフラッグ 「POLYPHONIC REFLECTIONS(ポリフォニック・リフレクションズ)」を制作。現在も外部案件のない期間掲出中。屋外公共空間における賑わいづくり、景観形成、アートのまちづくりなど推進中。エリマネ広告から派生した新規事業である「Ligaretta」(リガレッタ)を立ち上げ当初から担当。

Paper Parade (共同代表/クリエイティブディレクター)
守田篤史

「紙や印刷の新しい価値を生み出す」をテーマに、フィジカルの境界を横断しながら独自の世界観を創出するデザインを提案している。下町の印刷・紙加工工場との協働を通じてプリンティング、プロセッシング技術の知見を深める。アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からの提案を得意とし、サーキュラーの観点からプロジェクトをプロデュースするといったサステナブルな領域のデザインも提案している。国内外の受賞歴多数。JAGDA会員。コーヒーブランド 、キッチンスペース「1 room kitchen」主宰。

MODERATOR
&Co.代表取締役/プロジェクトプロデューサー
横石 崇さん

多摩美術大学卒。2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発、社会変革を手がけるプロジェクトプロデューサー。アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」や渋谷区の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、渋谷ヒカリエにてシェア型書店「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。法政大学兼任講師。代官山ロータリークラブ会員。著作に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)など、執筆連載多数。